変化する本との関係性


一般財団法人出版文化産業振興財団(JPIC)

理事長  肥田美代子


 平成30年の新春を迎え、お慶び申し上げます。
 本年が、皆さまにとりまして、実り多き一年となりますよう、心より祈念いたします。
 昨年は、国際的には、政治指導者としては未知数のトランプ米大統領の誕生、北朝鮮の核・ミサイル開発問題、各地でテロの多発など、不安を抱くニュースが多かったように思います。国内でも不安なニュースが相次いだものの、14歳棋士・藤井四段の29連勝、パンダの赤ちゃんシャンシャンの誕生、秋篠宮眞子様の婚約内定など、明るい話題も多く、私たちを和ませてくれました。長崎出身の英国在住作家カズオ・イシグロさんがノーベル文学賞を受賞されたことも、今年後半の大きな吉報でした。
 そんな中、出版市場は、売上げの下落傾向が平成8年以来20年を過ぎ、市場規模は半減してしまいました。ここ数年の傾向として児童書や学参が底堅く推移している一方、これまで出版産業を支えていた、雑誌、コミックの市場規模の縮小が著しく、業界三者に大きなダメージを与えています。
 そのような厳しい環境の中、デジタル配信・閲覧への対応、輸送問題、図書館との共存共栄なども喫緊の課題として、様々な機会に提起されます。
 さらに今年は、出版物に対する消費税軽減税率の適用に向けた正念場です。出版文化に携わる人たちは、「読者のため」「出版・言論の自由、国民の知る権利のため」と堂々と主張すべきです。JPICも、政官民にその理解の輪を広げるため、関係団体と協力し、軽減税率適用に向け取り組んでまいります。


本・読書への意識変化
 JPICは平成3年に出版業界の横断的な非営利団体として設立されました。以降20数年間、大切にしてきたことは、読書の魅力を周囲に手渡す人々の緩やかなネットワークを作ることです。そうした方々の学びの場として「JPIC読書アドバイザー養成講座」や「JPIC読みきかせサポーター講習会」等を毎年開催し、それらを受講された方々は累計4万名を超えます。
 その読書の魅力を周囲に手渡す人々4万名の緩やかなネットワークは、地域で子どもたちに絵本を読んであげるボランティア活動の活性化など、様々な形となって現れています。こうした機運の盛り上がりもあり、ここ数年JPICには、行政・企業・団体から出版・読書に関する事業の協力依頼が寄せられるようになりました。
 翻訳出版による日本の魅力に関する国際発信、読書・絵本による街づくり、読書活動によるCSR等々です。
 出版市場が縮小しているにもかかわらず、こうした活動が生まれるのは、なぜなのでしょう。本・読書をめぐる人々の意識が変化しているのであって、本・読書から急速に離れて行っているわけではないのかもしれません。
「出版市場の縮小」には、デジタル配信・閲覧、図書館の貸出数、中古書市場、Web上のオークションやフリーマーケットでの個人間売買などの動向は含まれていません。「書店で買わなくなった」とは言えても、「読者が急減している」とは言い切れないのではないか。
「読者は減っているのではなく変化している」と考えると、見えてくる風景も変わります。


新しい本との関係性
 今の10~20代が、その成長過程で最も慣れ親しんでいる情報ツールはスマートフォン等の携帯型デジタル・デバイスです。
 残念ながら、この世代にとって、情報媒体の主流は出版物ではありません。新聞でもなく、テレビやパソコンですらありません。
 一方で、スマートフォン等を活用したソーシャル・ネットワーク・サービス(SNS:facebookやTwitter)等には、読書を話題としたコミュニティが数多くあり、そこからヒットタイトルが生まれることも多々あります。
 また、「出版市場の縮小」「ネット繁栄」と一見矛盾するようですが、この10年来、ブック・イベントや読書会が全国に広がって、「読書を話題に人と人が繋がる」事例が各地に見られ、『流行』にすらなりつつあります。
 これらの「読書をたのしむ新しいスタイル」に共通してみられるのは、①「SNSで緩やかにつながり、情報交換する」、②「一人で読んで、みんなで共有する」です。
 JPICも、これまでの活動として、読書ボランティアの学習会、イベント、ネットワーク活用の活動に取り組み、参加者情報を収集・蓄積してきており、それは前記①に近似しています。そして、この方々が読みきかせ・おはなし会で「絵本・おはなしの世界を共有する」という楽しさを実感し、その活動も活性化しています。②と同種の楽しみ方と見られます。子どもの本市場が堅調なのも、②の活動が一定の好影響を与えていると考えられます。
 そこで、JPICでは、これまでの活動をさらに前進させ、「SNSを活用した、読書に関心のある10代を緩やかにネットワーク化する」「有志を中心とした地域読書コミュニティの運営」を有機的に連携させることで、若い世代に新たな読書体験を提供する事業に取り組みたいと考えています。
 地域の読書コミュニティを構成する読者が、SNSを介して広くつながることによって地域を超えた読書コミュニティをも形成するという複層性を持つことにより、私たちの予期しない、もっと言えば、読者自身すら思ってもいなかった魅力的な新しい本との関係性が生まれる期待を抱かずにはいられません。
 そんな、変化する読者像に寄り添うことで、出版文化産業の振興は図られるものと信じています。
 末文となりましたが、今年も一年、読者や出版業界の皆様とともに、読書の魅力を伝える活動に取り組めますよう、いっそうのご指導ご鞭撻を賜りますようお願い申し上げます。

以上

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