世界が待望する日本の優れた出版コンテンツ


一般財団法人出版文化産業振興財団(JPIC)

理事長  肥田美代子


 平成31年の新春を迎え、お慶び申し上げます。
 新しい御代を迎える本年が、皆さまにとりまして、実り多き一年となりますよう、心より祈念いたします。
 昨年は、大規模災害が相次ぎ、被害にあわれた皆さまには心よりお見舞い申し上げますとともに、その備えや救済対策の重要性を改めて考える契機となればと願っています。
 一方で、日本の若いスポーツマンたちが世界を舞台に大活躍をし、私たちを元気づけてくれた一年でもありました。平昌冬季五輪ではフィギュアスケート、スピードスケート、スキージャンプなど前評判の高かった競技で期待以上の成果を収めたばかりでなく、カーリング女子では、初のメダルとともに「そだねー」という可愛らしい言葉で「流行語大賞」まで獲得し、氷上からお茶の間にあたたかな笑顔を届けてくれました。
 さらには、バドミントンや卓球でも様々な国際大会で優勝や上位入賞、女子テニスの大坂なおみさんが全米オープンで日本人初優勝、フィギュアスケートでは16歳でシニアデビューしたばかりの紀平梨花さんがグランプリファイナル優勝、メジャーリーグ・ベースボールで大谷翔平選手が本格二刀流(なんとベーブ・ルース以来、およそ100年ぶりだそうです)で新人王を獲得など、その活躍を挙げればきりがなく、今年も若者たちの世界での活躍に期待を膨らまさずにはいられません。
「スポーツ」や「若者」だけではありません。京都大学の本庶佑特別教授がノーベル医学生理学賞を受賞されました。ストックホルムでの授賞式に羽織袴で臨まれた本庶先生の姿は、文豪・川端康成先生のそれと重なりました。記念講演での「将来、がんはコントロールできる『慢性疾患』のひとつになるだろう」という言葉は、多くの人々に希望を与えました。

 そんな、平成最後の一年間の出版界は、残念ながら、売上げの下落傾向が平成8年以来20年を超え、市場規模は、2兆6千億円超から1兆4千億円弱と、半減してしまいました。とくに近年は、雑誌、コミックの市場規模の縮小が著しく、業界三者に大きなダメージを与えています。取次各社の物流システムは、全国津々浦々に、迅速正確に、低廉なコストで届けることを実現し、日本の出版文化産業の発展を支えてきました。近年の急激な市場縮小はそのシステムの維持を危うくし、11月には、トーハンと日本出版販売の最大手2社が「物流協業へ検討開始」と発表するに至りました。書店も減少の一途をたどっていますが、「たくさんの魅力的な出版物を、近所の書店で手に取ることが出来る」という、知的で心地よい日常環境が維持されるよう、今後の果敢な取り組みに期待しています。
 また、今年10月には、消費税が10%に引き上げられる予定ですが、出版界がずっと求めてきた出版物に対する消費税軽減税率の適用が、年末の与党税制改正大綱で「引き続き検討する」とされ、今次の適用は見送られました。出版界は今後も、「食が『身体の糧』であるように出版物は『心の糧』であり、生きていく上で欠かせないものです。新聞と同様、すべての国民が書籍・雑誌等の出版物に広く平等に触れる機会を持つことは、民主主義の健全な発展と国民の知的生活の向上にとって不可欠」であることをアッピールし、軽減税率の適用を求めていくとしています。私たちJPICもこの考えを共有し、その役割の一端を担えるよう努力してまいります。

日本の出版コンテンツが世界に貢献する
 JPICは平成3年に出版業界の横断的な非営利団体として設立されました。「読書を通じた生涯学習の推進」「読書環境の整備」「出版業界の共通インフラとしての役割」などを事業目的としつつ、様々な事業を展開してまいりました。具体的には、「JPIC読書アドバイザー養成講座」や「JPIC読みきかせサポーター講習会」、「上野の森 親子ブックフェスタ」「JPIC YOUTH」「辞書を読むプロジェクト」等の主催、「各地の書店大商談会」「造本装幀コンクール」「全国訪問おはなし隊」等のサポートに取り組んでいます。
 そんなJPICが、平成26年度から内閣府の国際広報事業「日本の魅力発信に資する書籍の翻訳出版事業」に参画するようになって5年が経ちます。この事業では、大学教授、ジャーナリスト、元外交官、元図書館員ら民間有識者10名からなる選定委員会が幅広いノンフィクション・ジャンルから「世界の方々に読んでいただきたい(読まれるべき)優れた書物」を選び、英訳出版しています。発行書籍は、国内外約1,000か所の公共・大学図書館、研究所等に寄贈するとともに、市販もしています。
 事業開始当初は、JPICが各所の協力を取り付けるため説明に回ると、歓迎や期待の声がある一方で、「政府事業ではプロパガンダではないかと色眼鏡で見られる」「そもそもそんなニーズがあるのか」「これまでも様々な省庁で同旨の事業があったが、みな中途半端に止めてしまったので、期待できない」など厳しい意見も数多く寄せられました。
 しかし、JPICスタッフが海外の大学図書館や学会などで意見交換をすると「プロパガンダとみられる危惧はあるが、それは選書成果で払拭できる」「東アジアを学ぶ学生が日中韓から専攻を検討する際に、英語文献の多い地域に偏る。そうすると中国・韓国には文献の量ではまったくかなわない」「歴史や国際関係で、日本の立場から研究・説明する英語文献が少ないので、偏った認識が広まってしまっている」「図書館予算で、日本関係の資料費が毎年減らされている」等々の意見・指摘が相次ぎ、日本関係の良質な英語文献が求められていることを強く意識したとのことです。
 そのような声にも支えられ、同事業での発行書物は「JAPAN LIBRARY」シリーズとして、今年3月刊行予定の新刊13点を含めると計54タイトル(うち、48点はJPIC、6点は海外出版社より発行)に達しました。しかも、JPIC既刊35点中6点がすでに増刷となり、「優れた出版コンテンツは国境、文化を超えて読まれる」ということを実感しています。それどころか、政治、外交、経済が複雑化、混迷化を増す時代に、日本の叡智や考え方がますます注目され、「JAPAN LIBRARY」シリーズのような書物のニーズは今後、いっそう高まるものと確信するに至りました。ただし、「言葉の壁」は厳然とあり、「海外読者向けへの加筆修正~翻訳~英語ネイティブと日本人によるチェック~編集~発行」には長い時間と「わりと売れたね」という程度では回収できない大きなコストがかかります。海外の読者に届けるための、広報PRや商慣行、法律・関税等を熟知した人材の問題も大きく立ちはだかります。
 こうしたことを乗り越えて、「日本の魅力と叡智を、書物に載せて世界に届ける」には、政・官・学・民の協力体制が必要であり、その計画・展望も中長期のものが提示されなければなりません。JAPAN LIBRARYも次のステージに上がらなければなりません。日本の優れた出版コンテンツが、日本の研究者、理解者、ファンを増やし、さらには、日本の出版文化産業の新たな市場開拓に繋がるよう、微力ながら努力してまいります。

 末文となりましたが、今年も一年、読者や出版業界の皆さまとともに、出版・読書活動の可能性を切り拓ける事業に取り組めますよう、いっそうのご指導ご鞭撻を賜りますようお願い申し上げます。


以上

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